第70回AMWA年次総会参加報告
年次総会に参加さえすれば,引っ込み思案のあなたにもできる“networking”
株式会社エディット 小貫美恵子

会場前の看板
会場前の看板
今年のスローガンは,“SEEK, SOAR, SUCCEED”。
 第70回米国メディカルライター協会(American Medical Writers Association ; AMWA)年次総会は,11月11〜13日にウィスコンシン州ミルウォーキーで開催されました。創立70年を記念して作成されたAMWAの年表(ポスター発表)によれば,70年前に27名だった会員数は,2010年には5,300名を超えたそうです。年次総会には世界中から会員が集まりますが,最近ではアジアからの参加者が目立つようになりました。

 3日間に94のワークショップ,40のオープンセッション,そのほかにさまざまなアクティビティが行われた年次総会の全体像をご紹介するのは難しいので,今回は,AMWAがその活動として特に重視しているnetworkingを,年次総会でどう経験するかについて取り上げたいと思います。

 AMWAにはフリーランスのライターが数多く所属しており,彼らにとって年次総会は新たな仕事のチャンスを得る場でもあります。また,仕事を依頼する側にとっても,直接会って話をすることで自分たちの求める人材にめぐり会える可能性が高い貴重な機会です。実際,会場にはjob sheets(求人・求職の広告)の掲示板が設置されており,その前で熱心にメモをとっている方をよく見かけます。さらに,遠方のライター同士には,年1回face to faceで情報交換ができる期間です。

 グローバル企業にお勤めの方であれば,年次総会に参加することで,同じ会社の他国の方と親交を深めたり情報を交換したりできて,networkingは比較的スムーズでしょう。しかし,会社から派遣されたのは自分だけ,あるいはフリーランスなので一人で参加,AMWAには知り合いがいないという場合には,いきなり知らない人(それも,ほとんどは英語圏の方)と話をするのはかなり勇気がいります。でも,せっかく来たからには,セッションやワークショップに参加して学ぶだけでなく,情報交換もしたい,一緒に仕事のできそうなライターを探したいなどと思うのは当然です。もちろん,ワークショップに出席して講師や他の参加者と親しくなれればよいですが,実際には,講義やディスカッションについていくのが精一杯で,そんな余裕はないかもしれません。

 そこで,私のように,英語がそれほど得意でなく引っ込み思案のくせに,情報交換のできる人をぜひ見つけたいという方にお勧めしたいのが,Awards LuncheonやAwards Dinnerへの参加です。これらの開催スケジュールは,私が初めてAMWA年次総会に出席した1995年以降,まったく変わっていません。

 初日昼の“McGovern Luncheon”では,メディカルコミュニケーション領域で大きな業績を残した人に贈られるThe John P. McGovern Medalの授賞式と受賞講演が行われます。今回の受賞者は,2009年にAssociation of Clinical Researchers and Educatorsを設立したThomas P. Stossel博士でした。この団体は,(特に,研究資金サポートに関する)医師・研究者と製薬企業の適切な関係に焦点を当てて設立され,受賞講演では臨床研究や医学教育・出版における企業サポートのあり方の変遷と意義,問題点,今後の展開などが論じられました。

McGovern Luncheonの様子 受賞講演を行うThomas P. Stossel博士
McGovern Luncheonの様子
右は,受賞講演を行うThomas P. Stossel博士。

 2日目の昼は“Alvarez Luncheon”で,ヘルスケア領域における一般大衆へのコミュニケーションに特に貢献した人にThe Walter C. Alvarez Awardが贈られます。今回は,Prerna Mona Khanna博士が受賞しました。彼女は医師であるだけでなくジャーナリストでもあり,世界各地の被災地で救援活動に当たりながら,その現場をさまざまなメディアを通じて広く伝えてきた全米でも著名な人物です。受賞講演では,2010年のハイチ大地震の際の救援活動の様子を交え,被災地現場での医療サポートの重要性とその活動をマルチメディアで広く伝えることによる一般の人たちへの啓発の意義などについて講演が行われました。

 その日の夜には,AMWAに貢献した会員やその年の優れた医学・医療分野の書籍執筆者に賞が贈られる“Sablack Dinner”が開催されます。今年のThe Swanberg Distinguished Service AwardはMarianne Mallia氏が,President's AwardはChristine F. Wogan氏が受賞しました。

 いずれのLuncheon,Dinnerも,会場内には10名前後が着席できる丸テーブルがたくさんあり,参加者は来場順に好きな席に座ることができます。ほぼ席が埋まったテーブルから料理が運ばれますが,授賞式と講演はデザートが出る頃に始まるので,それまでは同じテーブルの人とおしゃべりをしながら食事をとることになります。このときが,あなたにとってのnetworkingのチャンスです。席に着いたら,隣の人に自分の名前や日本から来たことを紹介すれば,たいがい「日本からですか?」とちょっと驚いてくれて,同じように自己紹介をしてくれます。そこでさっそく,「それで,あなたはどんな仕事をしているのですか?」と尋ねます。これでOKです。だれも不躾とは思いません。年次総会参加者の目的の1つはnetworkingですから,仕事を探しているかどうかにかかわらず,どの人も積極的に仕事の話をしてくれます。もちろん,あなたの仕事の話も熱心に聞いてくれるでしょう。ほとんどの場合,共通点の多い話題(メディカルコミュニケーション)ですから,多少英語に難があっても(!)十分通じますし,かなりの情報交換もできます。あなたが職場では聞きにくいと思っている初歩的な質問でも,知っていれば何でも教えてくれます。逆に,いろいろ教えてあげることになるかもしれません。話が弾めば,さらにもう1つ隣,あるいは反対側の席の人も会話に加わってくれます。もし,テーブルで一緒になった人たちの話や仕事に興味をもったら,LuncheonやDinnerが終了して席を立つ前に名刺を交換し,後日メールなどで連絡をとってみればいいのです。

hospitality roomの一角にある展示ブース
関連領域の企業や出版社などがブースを出しています。
 もう1つのお勧めは,hospitality roomで話しかける方法です。この部屋には,発表ポスターや展示ブースがあり,コーヒーや紅茶などが提供されるため,人の出入りが多く,あなたと同じようになんとなく一人でブラブラとしている参加者が必ずいます。そんな人に話しかけてみましょう。いきなり話しかけても,だれも不審に思いません。実際,私はこの方法で,日本の医療事情に興味をもち,それらを理解して依頼に応えてくれる(われわれのようにeducational/commercial writingで一緒に仕事をする時には,意外とこの点が重要です!)他国のメディカルライターたちと知り合い,すでに10年以上一緒に仕事をしています。

 さらに,年次総会にはいつも10名を超える日本人が参加しているので,もちろん日本人メディカルコミュニケーターとのnetworkingもできます。今年こそ初めて参加しようと思っているあなた,もし現地でなかなか他国の方に話しかけられなかったら,とにかく日本人らしき人に声をかけましょう。そこから新しいつながりもできます。期間中のどこかの夜(たいがいは最終日)に日本人同士で誘い合って食事に出かけることも,ここ数年の恒例になっています。

 なお,AMWAには米国内の地域ごとにchapterがあり,初日の夜の“Chapter Greet and Go”というアクティビティで集合して,chapterメンバーで食事に行くのが通例です。もし,参加したいchapterがあれば,日本人はだいたいどこでも歓迎してもらえますので,紛れ込むのもよいかもしれません。

ミルウォーキー美術館の屋根
ミルウォーキーのランドマークであるこの建物のデザインは,スペインのサンティアゴ・カラトラヴァ(2004年アテネオリンピック・メイン会場の設計者です)。とにかく息をのむほど美しいフォルムです。内部も,全面のガラスから自然光が降り注ぐ,心地よい空間になっています。屋根の翼は時間ごとに開閉されます。訪問した日は,夕方5時にファンファーレとともに一度閉じ,また開きました。この時間はすでにかなり暗かったのですが,ライトアップされて,とても美しい光景でした。

 第71回年次総会は,2011年10月20〜22日にフロリダ州ジャクソンビルで開催されます(http://www.amwa.org/)。ぜひ,あなたもAMWAのnetworkingを楽しんでください。

 また,年次総会への参加に興味をおもちで,もっと詳しく話を聞きたいという方は,JMCA事務局(http://www.jmca-npo.org/)を通じて私にご連絡ください。他の参加者のご意見や情報などもふまえ,可能な範囲でお話ししたいと思います。