コラム一覧へ
第1回EQUATOR Publication School参加報告―メディカルライターとして
  2016/04/08
日本メディカルライター協会正会員
スタットコム株式会社メディカルコミュニケーション部
シニアメディカルライター,ISMPP CMPPTM
植谷 可恵

Enhancing the QUAlity and Transparency Of health Research (EQUATOR) Networkは,医学研究報告の質の改善を目指して,報告ガイドラインの使用の推進などの国際的な取り組みを行う組織です。
第1回EQUATOR Publication Schoolは,研究報告のライティングとパブリケーションを学ぶコースとして,2015年7月6〜10日に英国オックスフォードSt. Anne’s Collegeで開催されました。本コースの構成と内容は既発表のため1,ここでは重複を避けて,日本から参加したメディカルライターとして興味を持った点を中心に個人的な感想を交えてご報告します。

本コースに参加したのは欧州と日本からの15名で,職業はメディカルライターが3名,他は全て研究者でした。いずれのメディカルライターも医学コミュニケーション企業で論文等の作成に携わっており,特にスペインから参加していた男性は,自ら会社を経営し,過去に数十本の論文ライティングの経験があるとのことでした。この男性は講義中に実践的な質問やコメントを発言しておられ,よい勉強になりました。
コースには,論文の各セクションを作成するグループワークが随所に含まれていて,グループごとにメディカルライターが1名ずつ配置されていました。どのグループでもメディカルライターは「書く」作業の中心的役割を担っているようでした。私自身は,5日間の講義のほとんどが知っている内容だったので,そのことを欧州の参加者 (研究者) に話したところ,「もちろんよ!だってあなたは“professional medical writer”だもの!」と言われました。
これらの出来事から,メディカルライターはライティングとパブリケーションの豊富な知識を有することが当然であり,それらを基盤とした高度な技術をもって研究成果の公表・発信に貢献する専門職であると広く認識されていることを実感しました。

コースの講師は,研究報告のライティングとパブリケーションに関する各分野の専門家で構成されていました。まず,なんといってもProf. Doug Altmanがコース最大の魅力です。Altman先生はEQUATORの中心的存在であり,CONSORTをはじめとする報告ガイドラインでお名前を目にします。また,統計学者として長年にわたり報告の質研究にも熱心に取り組んでおられ,論文の「書き方」の質向上を目指した活動を牽引されています。
参加者のほとんどがAltman先生のファンといっても過言でなく,休み時間はいつも,サインや写真撮影を求める生徒に囲まれていました。私自身,憧れのAltman先生には過去に学会等でご挨拶を試みてきたものの,今回は少人数の講義や会食で身近に接することができて,報告ガイドラインや報告の質への興味からメディカルライターを志した身としては2,夢のような時間でした。

興味深かったこととして,講師陣に“professional medical writer”が2名含まれていました。1人目は,著名なメディカルライターかつ編集者のDr. Elizabeth (Liz) Wagerです。Liz先生はパブリケーションの専門家でもあり,British Medical Journal,世界医学雑誌編集者協会などの倫理委員やCommittee on Publication Ethicsの議長のご経験をお持ちです。近年は世界中でライティングとパブリケーションの教育活動をしておられ,書籍出版にも積極的に取り組んでおられます3,4
英国のLiz先生だけでなく,日米のメディカルライターも実践しておられるように5-10,大学などでライティングに関する講師を務めることや,著書を出せるレベルまで研鑽することは,メディカルライターのキャリアの1つの到達点であると認識しています。また,メディカルライターがパブリケーションや出版倫理の専門家として活躍の場を広げられる可能性は大きく,Liz先生はそのようなキャリアアップの成功モデルを常に示してくださいます。

もう1人のメディカルライター,Dr. Jackie Marchingtonは,医学コミュニケーション企業で長年のキャリアをもち,本コースでは著作権の講義を担当されていました。Jackie先生の講義は情報量が膨大で,知識と経験の厚みを実感できる内容でした。
欧米では,博士号や医師免許を有するメディカルライターは多いようです。また,パブリケーションの専門家であることを証明する資格International Society of Medical Publication Professionals Certified Medical Publication Professional (ISMPP CMPPTM) の取得は,メディカルライターが目指す次のステップに最適であると聞いていました。Jackie先生は博士号とCMPPTMをお持ちですが,その肩書だけでなく,アカデミアの講師陣にもひけをとらない学術的裏付けを感じました。
また,Jackie先生は“professional medical writer”の価値を調査した結果を論文化しておられ11,メディカルライターの存在意義を自ら問いかけ,発信する姿勢を感じます。Jackie先生にも,メディカルライターのキャリアの要点を教わったように思います。

コースでは他に,EQUATORの真髄ともいえる報告ガイドラインや,統計学的な留意点の講義がありました。パブリケーションの講義では,Liz先生から出版倫理の概要を学び,British Medical Journalの編集者Dr. Domhnall MacAuleyから,意義ある論文を発表するために欠かせない事柄について熱意のこもったメッセージを受け取りました。さらに,一般向けコミュニケーションや広報の講義もありました。

EQUATOR Publication Schoolは,ライティングとパブリケーションを学べる充実した教育プログラムでした。メディカルライターとしては,専門性や求められる役割,今後のキャリアの発展に向けた重要な示唆を得られました。また,魅力的な先生方や欧州で活躍するメディカルライターの先輩や仲間と過ごすことができ,多くの刺激を受けました。このような貴重な機会に感謝するとともに,今後の仕事に活かしていく所存です。

第2回EQUATOR Publication Schoolは2016年6月27日〜7月1日にオックスフォードで開催されます。

参考文献
  1. 植谷可恵, 市川周平, 大和田啓峰, 奥村泰之, 後藤禎人, 藤田卓仙. 第1回 EQUATOR Publication School. 日本臨床試験学会雑誌. 2015;10:s211-8.
  2. Uetani K, Nakayama T, Ikai H, Yonemoto N, Moher D. Quality of reports on randomized controlled trials conducted in Japan: evaluation of adherence to the CONSORT statement. Intern Med. 2009;48:307-13.
  3. Wager E. Getting research published: an A to Z of Publication Strategy. 2nd ed. CRC Press; 2010.
  4. Moher D, Altman DG, Schulz KF, Iveta Simera, Elizabeth Wager, editors; EQUATOR Network. Guidelines for reporting health research: a user’s manual. WILEY Blackwell; 2014.
  5. Lang T, Secic M. How to Report Statistics in Medicine: Annotated Guidelines for Authors, Editors, and Reviewers. 2nd ed. American College of Physicians; 2006.
  6. Lang T, Secic M, 著. 大橋靖雄, 林健一, 監訳. わかりやすい医学統計の報告-医学論文作成のためのガイドライン. 中山書店; 2010.
  7. Lang T. How to Write, Publish, and Present in the Health Sciences: A Guide for Clinicians and Laboratory Researchers. American College of Physicians; 2010.
  8. Lang T, 著. 宮崎貴久子, 中山健夫, 監訳. トム・ラングの医学論文「執筆・出版・発表」実践ガイド. シナジー; 2012.
  9. 林健一. 一流誌にアクセプトされる医学論文執筆のポイント. ライフサイエンス出版; 2011.
  10. 林健一. こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド. ライフサイエンス出版; 2014.
  11. Marchington JM, Burd GP. Author attitudes to professional medical writing support. Curr Med Res Opin. 2014;30:2103-8.

Photo by Takanori Fujita Photo by Takanori Fujita
Photo by Takanori Fujita Photo by Takanori Fujita
Photo by Kae Uetani Photo by EQUATOR publication school
Photo by Kae Uetani Photo by EQUATOR publication school
Photo by EQUATOR publication school
Photo by EQUATOR publication school
憧れのAltman先生と メディカルライターの受講生(Liz先生を囲んで)
憧れのAltman先生と
Photo by Takanori Fujita
メディカルライターの受講生
(Liz先生を囲んで)