ごあいさつ
大橋靖雄
理事長 大橋靖雄
 特定非営利活動法人(NPO)日本メディカルライター協会は,健康・医療情報伝達における一般市民の啓発と,メディカルライターやヘルスコミュニケーターの育成を主な目標として,このたび2006年5月に設立されました。

 未曾有の高齢化社会を迎えたわが国の国民にとって,健康・医療の問題は最大の関心事となっています。このことを反映し,またインターネットの急速な普及もあり,巷間には質がさまざまな健康・医療情報が氾濫し,かえって国民を混乱させている状況にあります。一方,ゲノム情報活用やバイオテクノロジーの進展により,先端医療の技術的側面は進むものの,これらの技術を治療として受け入れる,あるいはその前段階として実験的臨床研究や疫学研究の対象となる国民側の理解は不十分です。このことが研究倫理上の問題を引き起こし,同時に国際競争の中でわが国がリーダーシップを得る上での障害となる可能性も大きくなっています。

 健康・医療に関する専門情報を国民に適切に届けるためには,それを咀嚼しかつ適切な文章の形で発信する専門家が,雑誌・新聞・ホームページ等のメディアによらず必要です。この専門家がメディカルライターですが,発信する情報は受け手のレセプターに応じて変えられ最終的には行動変容を引き起こすべきことから,メディカルライターには,当該分野に対する基礎知識を含む,単なる「物書き」を超える能力が期待されます。よって近年は,コミュニケーターと呼ばれることが多くなっております。

 欧米ではメディカルライターあるいはコミュニケーターの社会的地位は確立し,職能団体としての学会も長い歴史を有します。たとえばこの分野の先進国であるアメリカの学会 AMWA(American Medical Writers Association)は,1940年に設立され5,000人超の会員を抱え,その恒常的活動の中心は少人数の演習を基本とした教育であり,単位取得に基づいた資格認定も行なわれています。振り返って,わが国においては技術文書ライティングに関する高等教育はほとんど存在しない状況であり,医学の分野もこの例にもれません。同時に健康・医療情報を受けとめる一般市民に対する,受けとめ方自体に関する啓発の試みもほとんど存在しておりません。

 そこでこの法人は,広く一般市民に対して,保健と医療に関する情報を正しく伝達することの意義について理解を求めるとともに,医学,医療,薬学を主とする自然科学領域の研究機関,企業,メディア等で情報の交流に従事する者に,教育,情報交換,啓発活動,ならびに職業能力の開発と雇用機会の拡充を図る場を提供し,保健,医療,福祉の増進に寄与することを目的としております。確立した科学分野の学会であれば,中間法人といった形態をとること,あるいはNPOであっても会員総会主導型のNPOを設立することが適切と思われますが,まだ充分認知されていない分野であること,教育・啓発事業が中心となることから,より機動性の高い理事会主導型のNPOを設立することにいたしました。本NPOの母体は2002年に有志により設立された任意団体ですが,教育セミナー・シンポジウム等の開催を通じ,活動の素地は十分に形成され,かつNPO設立の必要性は会員共通の理解となっております。

 より一層の活発な,かつ社会的に認知された活動を継続性と透明性を持って展開するための基盤づくりを目指すため,本法人の趣旨をなにとぞご理解いただき,ご支援,ご入会を賜りますよう,重ねてお願い申し上げます。

東京大学名誉教授
中央大学理工学部 人間総合理工学科 教授
大橋 靖雄