世界の100カ国前後で使用されその劇的な効果が認められていながら,日本では今なお未承認のワクチンが少なくありません。子宮頸がんワクチンや細菌性髄膜炎ワクチン(Hib)がその代表例です。
いま20〜30代女性における子宮頸がん罹患数が著しく増加し,乳がんの罹患数を上回っていますが,アメリカなどでは子宮頸がんワクチン接種者においては,がんのリスクを90%以上も減少させられるという報告もあります。
日本がワクチン後進国となってしまった原因のひとつに,リスクコミュニケーションの悪さが指摘されています。マスメディアなどがワクチン接種に伴って稀に起こる副作用を強調するあまり,ワクチンが果たす優れた効果を社会全体が拒否するような状況が生まれているのです。これは私たち医学・科学コミュニケーターにとって,座視出来ない問題と言えます。
今回のシンポジウムでは,まず子宮頸がんとそのワクチンの実像を知り,続いて日本で未承認のワクチンの背景を検証し,ワクチン実施に伴う費用対効果問題およびリスク対ベネフィット問題を考え,医学・科学コミュニケーターとして認識したい「ターゲットに届く情報発信」のあり方を,専門家と共に探っていきたいと思います。
誤った風聞がいかにして社会の拒絶反応につながるかを検証しておくことは,優れたワクチンを闇に葬り去らぬためにも,コミュニケーターとして体験すべき重要なプロセスだと思われます。
このシンポジウムが,子宮頸がんワクチンに関する,研究者,医学・科学コミュニケーター,メディア,製品を提供する企業関係者,ワクチン実施を心待ちする市民や患者団体,そして情報不足がささやかれる医療関係者などが一同に会する機会となり,ワクチンの必要性とリスクコミュニケーションに対する議論がいっそうの高まりを見せることを願っています。