特定非営利活動法人(NPO)
日本メディカルライター協会
Japan Medical and Scientific Communicators Association
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はじめに
医療や健康に関する情報のやり取りは益々豊富になっています。新聞・雑誌・テレビ・ラジオやインターネットなどのマスメディア上の情報だけでなく、日常生活における口コミ情報にも豊富に含まれています。読者の皆さんは、そういった情報が誰によって生み出され、流通しているのかおわかりになるでしょうか?
それぞれのメディアの作り手たちや医療専門家が関わっているのは確かですが、もう一歩踏み込んで考えると、どのようなメディア(媒体)や表現方法であれ、必ず情報を文字にする段階があります。新聞や雑誌などの文字媒体であれば記事を書く記者さんやライターさん、ラジオやテレビなどの放送媒体では、それぞれの番組の台本を書く人たち(構成作家や脚本家など)です。医師や専門家が直接記事等を執筆する際はそういった人たち自身も情報の送り手になります。インターネット上のウェブページや、近年流行のブログと呼ばれるウェブ日記などは医療専門家や研究者が直接不特定多数の読者に向けて簡便に情報発信できるツールとなっています。
こういった医療・健康に関連する情報発信を職業的に実践する人たちを全て含めて、広義のメディカルコミュニケーターまたはヘルスコミュニケーターと位置づけることが可能です。米国における狭義の例では、前者はより医学・薬学研究に特化した内容、後者はより健康一般情報も含めた内容を主に扱う職能、という使い分け方をされています。また、英語圏では前者にあたる製薬企業・大学・行政機関などで薬事申請書類の作成や学術論文執筆を担当する職能のことを狭義にメディカルライターと称する場合もあります。米国の職能団体
AMWA
やヨーロッパの
EMWA
は有名です。また、後者の場合は前述した様々なメディアを駆使して一般市民に医療健康に関連した情報を発信します。
とはいえ、日本ではメディカルコミュニケーター、ヘルスコミュニケーターの専門職や領域がじゅうぶん確立されていないので、人材を体系的に育成する仕組みが必要です。誤った情報・偏った情報が流れてしまうことにより、医療の実践や国民の健康づくり、病院などの医療機関や医療専門家という資源を適切に活用する能力(ヘルスリテラシー・病院リテラシー)にも影響が出ることが予想されますし、そういった報告も散見されます。また医療・保健業界全体のPRや職業倫理にも関わることなので、これらの専門職が担う責任はとても大きいと考えます。
テクニカルライティング(メディカルライティング)とヘルスコミュニケーションの違い
もう少し違った角度から両者を見てみましょう。医療業界内からは、業界内コミュニケーションと対外的コミュニケーションという風にも定義できるかもしれません。対象者で見ると前者は主に医療関係者や製薬などの関連企業や時には疾病の当事者であり相当の専門知識を持っている患者さん向け、後者は専門知識を持たないまたはまだ当事者ではない一般市民向け、と捉えることもできます。病院広報の役目も多くは後者に属するでしょう。
これだけ違う両者ですから、「書く」当事者に求められる資質は随分異なります。製薬・医学研究分野で求められる専門的なテクニカルライティングと一般市民への啓発・情報提供を目的としたヘルスコミュニケーションでは目的も形式も表現の難易度もかなり異なるからです。
前者は専門用語という共通言語を持った読者向けに円滑な薬事申請・研究推進・研究成果発表を目的としているので、規定の形式や表現、論理構造を用いることが求められるのに対し、後者は多様な読者向けに、専門家(医療関係者・製薬企業)−非専門家(患者・一般市民・消費者)間の円滑なコミュニケーションとその結果の行動変容(疾病予防・健康づくり等)を目指していますので、以下の要素が求められます。
1.
難解な概念や事象をわかりやすく明確に書く
2.
正確性・妥当性をぎりぎり保つ(ぎりぎり、と表現したのは3とトレードオフの関係 ―面白くしようとすると正確さに限界が生じ、正確を期すると面白さに限界が生じます― にあるからです)
3.
専門知識の無い読者をも引き寄せ・行動を起こさせるような表現・ストーリー(物語)にする(覚えやすい印象的な表現も重要ですが、何より人に行動を起こさせる物語構造や説得するための仕組みが重要です)
一番重要なことは、この両者(専門家向けメディカルライティングと一般向けヘルスコミュニケーション)は「医療・健康環境」という車の両輪であることです。当然そこで活躍する人材も、前述したように質の高い医療・健康環境を広く平等に国民に提供する上で必須の存在です。
この連載の趣旨
この連載記事では、日本に医療の制度や状況がそっくりな架空の「ヒノモト国」の人たちの会話をヒントに、以下の内容を読者の皆さんにご紹介しつつ、楽しみながら物語の登場人物たちと共に考えていくことを目的としています。
1.
メディカルライティング・ヘルスコミュニケーションという領域があること
2.
これらの領域では何が行われているのか
3.
どんな人が関わっていて、日々どんな苦労をしているのか
4.
日本の医療をよくするために、どんなことを期待できるのか
5.
JMCAの役割とは
さらに、これらの領域や職種についての社会的認知向上の努力をすることで、ライター、コミュニケーターの方たちへの刺激になり、またこういった領域を目指す学生さんたちへの一助となることを同時に目指します。今回は予告編です。連載期間中、お付き合いいただけると幸いです。
読者の皆様からの忌憚の無いご批判・ご意見・ご質問などのフィードバックをお待ちしております。
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