医療,とりわけ「がん」など,治癒が困難な領域においては,医療提供者(医療者)と受益者(患者・一般市民)が持つ情報の質・量のギャップは著しい。実際に,IT,金融など,医療と同様に,いわゆる「情報の非対称性」が顕著な領域では,情報提供者側のモラルハザード,受益者側の逆選択(正しい,サービス・プロダクトが選択できない)といった問題が指摘されている。
がん医療においては,このような背景より,2007年より「がん対策基本法」が施行され,その基本理念には,「がん患者がその居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにすること」,「がん患者の置かれている状況に応じ,本人の意向を十分尊重してがんの治療方法等が選択されるようがん医療を提供する体制の整備がなされること」が掲げられており,患者へのICは,Informed Consentから,Informed Choiceへの変化が期待されている。しかしながら,いくつかの領域においては,未だ,その科学的根拠と,患者・一般市民の理解,認識の乖離は大きい。
また,このような環境の中,時に,予防・検診・治療など医療介入におけるドラスティックなパラダイム・シフトが表出することがある。今回のサロンでは,最近,欧米においても議論となっている米国予防サービス調査特別委員会(U.S. Preventive Services Task Force)の「40歳代の対策型マンモグラフィー検診を必須としない」などの勧告事例を紹介し,グループ演習では「乳がん検診(マンモグラフィー検診他)」におけるパラダイム・シフトを,その利害関係者が,どのように理解,認識し,がん領域におけるInformed Choiceを進める上で,どのような対応が望まれるかを検討する。