医療上のさまざまな問題の解明に疫学は大きな役割を担っています。疫学は観察研究と介入研究からなり,前者にはコホート研究やケースコントロール研究,後者には臨床試験が含まれます。治療の有効性を評価する目的では,様々なバイアスの影響を受ける観察研究から得られた知見は臨床試験から得られたものよりエビデンス・レベルが低いとされています。
しかし,臨床試験は常に実施できるわけではなく,問題の性質によっては,観察研究の実施が唯一の解明方法であることも少なくありません。この場合,観察研究の成績を報告する際には細心の注意が必要です。ランダム化や盲検化という強力な技法によってバイアスを最小化できる臨床試験とは異なり,観察研究を実施した場合には,1.研究の計画,2.データの収集と解析,3.結果の解釈の各段階でバイアスや交絡の可能性を考慮する必要があり,これらを考慮しないと,誤った結論を導く恐れがあります。
こうした状況を踏まえ,日本メディカルライター協会では,観察研究の計画・解析・報告に関するセミナーを開催することとしました。今回は入門編として,観察研究の基本部分を解説いたします。観察研究に関与する医師の方々,製薬企業のメディカルアフェアズ部門で医師の自主研究を支援する方々などのご参加をお待ち申し上げます。
(京都大学大学院医学研究科 健康情報学分野 教授 中山健夫)