AHA(アメリカ心臓協会)と並ぶ、アメリカというより世界最大の臨床系学会ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)の年会が5月末からシカゴで開催されました。全体の参加者は3万人を超えましたが、日本からの参加者もますます増加し、今年はゆうに1000名を超えたと思われます。その中には多くのメディカルライターの方々も含まれていました。ライターの役目は、口演・ポスターの形でなされる(主に臨床試験に関する)学会発表をいち早く日本語で発信し、日本の医師・製薬会社等関係者に伝えることです。発表の翌日にはインターネット経由でこの発信情報を手に入れることさえ可能です。学会に参加できない留守番組にとってはありがたい話で、さらには広い学会場を歩き回るより効率的かもしれません。
さてこのシステムが有効に機能するためには、発表内容がライターの方に正しく理解され、正しく発信されることが基本です。がん分野に限らず医療情報はますます増加し、その中で統計数値の形で発表される臨床試験結果の持つ意味を正しく、しかも短時間のうちに理解することはそれほど簡単なことではありません。当該分野に関する背景知識はもちろん、統計学の知識もある程度必要となります。記事の分量は限られていますから、簡潔に日本語文章を書く能力も当然必要です。
今回のJMCAサロンでは、「学会場からどう発信するか」をテーマに、臨床試験を対象に、学会発表を日本語記事にする能力をアップする演習を企画してみました。まず大橋が、一つのプレスリリースが新聞各社により異なった「色合い」で発信された事例を紹介します。ついで抄録を読んでいただいたうえで、ASCOの発表を一つ再現(スライドと音声)します。これを記事にしていただいたうえで、日本を代表するメディカルライターとして活躍されている小貫美恵子氏(株式会社エディット代表)に、記事を書くうえでの基本とノウハウを講演していただきます。グループ実習で記事をポリッシュアップした後に、講師と受信側の医師から講評してもらう予定です。
発信実務に携わっておられるライターの方々はもちろん、臨床試験情報を正しく理解したいと思われている製薬会社の学術・開発担当の皆様にも参加をお薦めいたします。
(東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 生物統計学教授,JMCA理事長 大橋 靖雄)